IT嫌いな上司を動かす!ビル管理DXプレゼンのコツ

最終更新日 2025年4月29日 by sangaku

「DX?また横文字か…」
会議室の空気が一気に重たくなる瞬間、あなたも経験ありませんか?

ビル管理の現場にいると、「これは紙じゃなくてもいいよな」と思う場面が山ほどありますよね。
でも、いざそれを上に伝えようとすると「うちは昔からこれでやってるから」と一蹴。
新しいツールやシステムの話になると、上司の顔が曇る――そんな経験をした人は少なくないはずです。

この記事では、現場スタッフの視点から、ITが苦手な上司に「DXの必要性」をどう伝えるかにフォーカス。
ありがちなNG提案パターンや、実際に“刺さる”プレゼン方法、話し方やスライド構成のコツまで、実践的に解説します。

キーワードは「安心感」と「共感」。
数字や専門用語で押し切るのではなく、“あるある”と現場感で上司の反応を変えるテクニックをお届けします。

上司が「DXアレルギー」になる理由

なぜDXは拒絶されるのか?

そもそも、なぜ上司は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉に反応してしまうのでしょうか?
実はその背景には、心理的なハードル業界特有の文化が根強く絡んでいます。

たとえば、あるベテラン管理職の方は「ITって便利そうだけど、現場が混乱するだけじゃないか?」と口にしていました。
つまり、「導入=混乱」というイメージが先行しているのです。

さらに、自分の成功体験が否定されるような感覚も、拒絶反応の原因に。
何十年も紙と電話でビルを管理してきた人からすると、「今のやり方が悪い」と言われているように感じてしまうのです。

また、「アプリは若者のもの」「パソコン操作が苦手」といったITリテラシーへの不安も無視できません。

よくあるNG提案パターン

では、そんな上司に対してやりがちな“地雷提案”とは?

1. 横文字てんこ盛りプレゼン
「このAPIを使えばSaaSとクラウド連携して…」
それ、完全に呪文です。相手は1ミリも理解していません。

2. コスト削減ゴリ押し
「このツールを入れれば月●万円削減できます!」
でも、上司が気にしているのは“失敗したとき誰が責任を取るか”だったりします。

3. 他社成功事例の押し付け
「〇〇ビルではこれで業務時間が50%減ったそうです!」
それを聞いた上司の心の声は、「で、うちの現場と何が関係あるの?」です。

こうしたNG提案は、“納得”ではなく“拒否”を生みやすいため注意が必要です。

現場目線 vs 管理職の視点ギャップ

現場スタッフとして日々汗をかいているあなたは、「これは非効率だ!」とすぐに気づきます。
でも、管理職側にはまた違った視点と責任があります。

現場目線

  • 点検や清掃の手間が増えている
  • 紙やFAXでの管理が面倒
  • 業務改善に前向き

管理職目線

  • トラブル回避と安定運用が最優先
  • 新システム=教育コスト・人手不足の懸念
  • 評価リスク(新しいものに失敗するとマイナス評価)

このギャップを埋めるには、単なる「便利アピール」では足りません。
上司が本当に不安に思っていることに、共感し、丁寧に拾うことが第一歩になります。

「刺さる」プレゼン準備のポイント

上司の性格タイプを見極めよう

DXの提案に入る前に、まずやるべきこと。
それは、「資料づくり」ではなく“人間観察”です。

プレゼンの成功率は、内容の良し悪しだけでなく、相手との相性に大きく左右されます。
とくに、ITに懐疑的な上司を動かすには、「どんな人に、どう響かせるか」の設計が超重要です。

以下は、ビル管理の現場でよく出会う上司タイプ3選。
それぞれに最適な“刺さるアプローチ”を紹介します。

1. 慎重派(典型的な“リスク警察”)

  • 口グセは「うちは特殊だから」「念のため」
  • 新しいことに対して「まず不安ありき」で構える
    →こういうタイプには、「段階的な導入シナリオ」+「失敗時のリカバリー策」を用意して安心材料を渡すのが効果的。

2. プライド型(俺が長年この現場を支えてきた)

  • 「昔はな…」が口グセ。実績を誇る一方で承認欲求も強め
    →「この改善案、○○さんだからうまくいくと思ったんです」と“上司を主役にする演出”で巻き込むのがカギ。

3. 現場肌型(紙と手帳こそ正義)

  • 現場第一主義。感覚重視で理屈より経験を信じる
    →「現場の○○さんも困ってるって言ってました」など、“共通の現場あるある”を足がかりに共感を引き出す戦術が◎。

“どんなツールか”ではなく、“どんな上司に話すのか”。
これを見誤ると、内容がどれだけ良くても、プレゼンは空振りします。

説得より“安心感”が鍵

ITに苦手意識のある上司にとって、DXの話は“合理化”ではなく“未知の脅威”に見えていることがあります。
そのため、ロジックで論破するより、心理的な安心感を与えることの方が、はるかに有効です。

具体的には、以下の3つの要素を盛り込むとプレゼンの空気が和らぎます。

1. いきなり全部やらない宣言
「まずは1フロアだけ」「3カ月間のトライアルで」といった“お試し枠”を用意することで、「とりあえずやってみようか」と一歩を踏み出しやすくなります。

2. サポート体制の可視化
「導入後も現場フォローに付きます」「操作マニュアルも一緒に作りました」など、“投げっぱなしにしない”姿勢を明示することが信頼につながります。

3. 逃げ道の用意
「ダメだったら元に戻しましょう」と“撤退可能性”を最初に出しておくと、相手は安心して前向きに検討できます。

上司にとってDXは、“便利”ではなく“賭け”に見えることが多い。
だからこそ、「説得」ではなく「安心設計」がプレゼン準備の主軸になるのです。

数字より「不便あるある」でつかむ

よくある失敗は、「導入後の業務効率が25%向上!」といった数字を前面に出すこと。
ですが、数字だけでは多くの上司にとって実感が湧きません

それよりも効果的なのが、“地味でリアルな不便さ”を引き合いに出すこと。

たとえば、こんなエピソードは刺さりやすいです:

  • 「毎月末、報告書のハンコを回すのに3日かかってるんですよね…」
  • 「FAXが送れなかっただけで、朝イチの点検が止まっちゃったこともありました」
  • 「過去データを探すのに書庫で1時間かかった日、ありましたよね?」

こうした“あるある話”をプレゼンの導入に入れることで、上司は「それ、うちでもあるわ」と共感しやすくなり、DX=他人事から、自分ゴトへと意識が変わります。

スライド・資料の作り方:脱パワポ警察!

文字数は?色は?構成は?

「資料つくったから見てください!」
そう言って出てきたのが、文字がぎっしり詰まったスライド10枚。
…はい、それ、“読ませる気ゼロ”資料です。

DXを毛嫌いする上司に響く資料とは、「構えずに読める」「一瞬でイメージが湧く」そんなやさしさにあふれた資料です。以下のポイントをおさえましょう。

1. 1スライド1メッセージ
→「言いたいことはひとつだけ」。あれもこれも盛り込みたくなる気持ちはわかりますが、情報はスライドで分ける勇気を。

2. 色数は最大3色まで
→信号や標識と同じで、人は色が多すぎると混乱します。
ベース+アクセント(強調色)+グレー系くらいがちょうどいい。

3. フォントは大きめ・行間広め
→上司がメガネを外しても読めるサイズが理想。「詰めない」=「伝わる」です。

4. 左上から右下へ“視線の流れ”を意識
→視線誘導を考えると、情報の配置だけで理解度が変わります。

スライド資料は、“気合い”ではなく“思いやり”でつくるもの。
「読まれない資料」に未来はありません。

「導入後の1日」を描くストーリーテリング術

どんなに美しいスライドを作っても、上司の頭に残らなければ意味がない。
そこで効果的なのが、“1日の流れ”を追うストーリースライドです。

たとえば、こんな展開:


■Before(導入前の現場)

  • 朝:報告書を印刷 → ハンコ押しでバタバタ
  • 昼:現場から戻ってメモをパソコンに転記
  • 夕方:明日の点検ルートをホワイトボードに手書き

■After(導入後の現場)

  • 朝:アプリで点検予定を自動通知
  • 昼:現場でチェック → 音声入力で即データ化
  • 夕方:クラウドで全体共有、翌日の準備も完了

こうしたビフォーアフター型のストーリーは、単なる機能説明よりも、「使っている自分の姿」をイメージさせやすいです。
システムの名前や仕様よりも、“人の動きがどう変わるか”に焦点を当てましょう。

失敗しない「先進事例」の見せ方

「他社の事例を紹介すれば説得力が増す!」
…そう思って、どこかの有名ビルの導入事例をドーン!と出すのはちょっと危険です。

なぜなら、「うちはそこまで大規模じゃないし…」と他人事にされやすいから。

先進事例を使うなら、次の工夫を加えてください。

1. 類似規模・同業種を選ぶ
→ビルの種類、築年数、テナント構成などが近いと、相手も「うちでもできそう」と思いやすい。

2. 現場スタッフのコメントを添える
→「紙の報告がなくなってすごく楽になった」など、システムより“人の声”を主役にすると信ぴょう性が増します。

3. 導入初期のつまずきもあえて伝える
→「最初は慣れるのに1週間かかったが、今は…」といったリアルなプロセスが、相手の不安を和らげます。

事例は、“憧れの未来”ではなく、“身近な一歩”として紹介するのが鉄則です。

プレゼン当日、実践すべき話し方・動き方

最初の30秒で流れが決まる

プレゼンが始まった瞬間、上司の心はこう思っています。
「で、これ…俺に関係あるの?」

だからこそ、冒頭30秒が勝負どころ。
ここで“自分ゴト感”を一気に引き上げる必要があります。

おすすめは、「問いかけ+ストーリー型」のオープニング。

「報告書、朝イチでFAX届かないと焦ること、ありませんでしたか?」

実はこの問題、今現場で1日1回以上起きています。
今日はそれを“もう起きない”ようにする提案です。

こう話し始めると、上司の目線がスッと資料に向きます。
データより実話、理屈より実感。
最初の一言で、“聞いてみるか”という空気をつくりましょう。

「技術より現場」で押す

DX提案=技術の話、と思われがちですが、
本当に伝えるべきは「現場がどう変わるか」。

上司の頭の中には、「で、実際それって誰が触るの? どれくらい大変なの?」という疑問がぐるぐるしています。

そこで意識したいのがこのフレーズ:

「システムの話ではなく、いつもの現場をどうラクにするかの話です」

難しい機能説明は、あえて省いてもOK。
それよりも、「これ、〇〇さんも“いいじゃん”って言ってましたよ」と、現場の声を引用するほうが、はるかに効果的です。

想定質問と“かわし方”リスト

プレゼン中に飛んでくる上司の“鋭い一言”、想定しておかないと冷や汗モノです。
以下は、実際にありがちな質問と、その落ち着いたかわし方をまとめた表です。

上司の質問・反論例スマートな返し方
「結局、コストかかるんでしょ?」「初期費用は発生しますが、年間で△△時間分の人件コストが軽減できます」
「うちのスタッフ、こういうの使えるの?」「初期に一緒にトレーニングします。実は〇〇さんも5分で使いこなしてました」
「導入したあと、トラブル起きたらどうするの?」「ベンダーが24時間対応です。社内でも私が窓口になります」
「前に似たようなの試して、うまくいかなかった」「今回は“前回の失敗”を踏まえて、スモールスタート方式にしています」

上司の不安は「疑い」ではなく「責任感の裏返し」。
“否定しないで受け止める”ことが、信頼につながります。

成功の鍵は「導入後のフォロー」にあり

なぜプレゼンだけでは終わらないのか

DXのプレゼンが終わり、上司が「わかった。とりあえずやってみよう」と言ってくれた。
この時点で、「よし、成功だ!」と思っていませんか?

……実はここからが本番です。

現場に変化が起きるのは、“導入が決まった後”から。
そしてそのとき、上司の頭の中にはこんなモヤモヤが浮かんでいます。

「本当に現場が回るのか…」
「使いこなせず結局戻すことにならないか…」
「誰がトラブル対応するのか…」

プレゼンは、いわば“種まき”。
でも、芽を出すには、導入後の水やり=フォローアップが欠かせません。

小さな成功体験を積ませる方法

上司の“DX嫌い”を根本から変える方法、それは「成功体験」です。
しかも、ド派手なものでなくて構いません。むしろ、“気づいたらラクになってた”程度の小さな変化がベストです。

小さな成功体験のつくり方:

  • 1つの作業だけをDX化(例:点検スケジュールの自動通知)
  • 操作の簡単さを強調する(例:「ボタン一個です」)
  • 現場から「これ便利っすね」と自然に声が上がるよう仕込む

こうした流れを体験した上司は、次第にこう思い始めます。

「まぁ、思ったより悪くないな」
「使えてるなら、ちょっと続けてみるか」

成功とは、納得より“慣れ”で得られるもの。
その慣れを導くのが、あなたの“こまめな声かけ”や“現場の支援”です。

ちなみに、こうした「現場主導でのDX推進」を実践してきた人物のひとりが、後藤悟志 さんです。

ビルメンテナンスの枠を越えて、現場発のデジタル導入を成功させている彼のアプローチは、ぜひ参考にしたいところ。

上司を“勝手にDXの味方”に変えるコツ

最終ゴールは、「DXやるぞ!」と上司に言わせることではありません。
むしろ、「あれ?これってDXだったの?」と自然に巻き込まれている状態が理想です。

そのための秘訣は、次の3ステップ:

  • 1. 成功体験をそっと報告する
    「〇〇さん、あの点検アプリ、もう毎日使ってくれてますよ」
  • 2. 上司の発言に“DXっぽい言葉”を添える
    「これってDX的にも正しい方向ですよね」と“知らぬ間に共犯者化”
  • 3. 成果が見えたら、そっとクレジットする
    「○○さんが決断してくれたおかげです」と主役の座を譲る

人は、自分が決断したことに対しては反対しない。
だからこそ、「あれは自分が始めた」と思わせる演出が大事なのです。

DXの旗を振るのは、あなたでも上司でもなく、“現場全体”であればそれでいい。
その空気感をつくるために、導入後のフォローはプレゼン以上に戦略的に動きましょう。

まとめ

ビル管理の現場でDXを語ると、「また面倒なことが増えるのか」と身構えられることもあります。
でも本来、DXは“人を楽にする”ための手段であり、押しつけではなく“巻き込み”がカギです。

現場で感じたリアルな課題を、上司に届く言葉で伝える。
小さな導入から成功体験をつくり、「なんだ、やってみてもいいかも」と思わせる。

DX推進の主役は、偉い人でも、すごい人でもありません。
“一歩を踏み出したあなた”そのものです。

焦らず、諦めず、でもちょっとだけ戦略的に――
現場×テクノロジーの力で、上司の心を少しずつ動かしていきましょう。

Q&A:よくある疑問に答えます

Q. DXに抵抗が強い役員クラスにはどう説明すれば?

A. 「他社が始めている」という“外圧”を利用しましょう。
役員層は業界の動向や社外の評価に敏感です。
「〇〇管理会社ではすでに導入済み」「行政も推進中」といった事例を添えて話すと、説得力が増します。

Q. プレゼンが却下された場合は、どう巻き返す?

A. 一度で決まらなくてもOK。小ネタ作戦で攻めましょう。
たとえば、「この前の報告書、クラウド化してたら探すの3秒でしたよ」と日常会話にちょこちょこ挟んで“便利アピール”を続けましょう。
プレゼンは単発勝負ではなく、シリーズ戦です。

Q. 若手がDXを提案すると「生意気」と思われないか心配…

A. 「教えてください」の姿勢が最強です。
「現場の声を上司の経験と一緒に整理したい」と伝えれば、“学びたい部下”として受け止められます。
対立ではなく“共創”のスタンスで臨みましょう。